「膝が曲がらない」その前に──ちゃんとまっすぐ伸びていますか？
日本人の生活では、和式の動きが減ったとはいえ、階段の上り下り・しゃがみ動作・床に座る・正座など、膝を曲げる場面はまだまだ多くあります。
「正座ができない」「しゃがめない」「膝が曲がらない」と感じて受診し、変形性膝関節症と診断され、注射や痛み止め、リハビリや筋トレを続けている。それでも思うように膝が曲がってこない…そんな方も多いのではないでしょうか。
実は、膝が曲がらないと感じている方の多くは、細かくみていくと「膝がしっかり伸びきっていない」「膝のねじれが強い」状態になっています。つまり、曲がらないだけでなく、伸ばしきれないことも同時に起きているケースがとても多いのです。
膝がわずかに曲がったままの状態が続くと、関節には常に余計な力がかかり、痛みや変形の進行につながるおそれがあります。一度、ご自身の膝が本当にまっすぐ伸びているかどうか、確認してみましょう。
人の関節は、どの関節も「曲げる筋肉」と「伸ばす筋肉」がペアで働いています。片方が働くと、反対側は自然と力を抜く──これを専門的には相反神経支配と呼びます。
簡単にいうと、膝を伸ばすときには膝を曲げる筋肉がゆるみ、膝を曲げるときには膝を伸ばす筋肉がゆるむという関係です。どちらか一方だけがずっと緊張していると、もう片方の動きもスムーズに出せなくなります。
つまり、「伸びない膝」は「曲がりにくい膝」でもあるということです。膝が曲がりにくいと感じる方は、まずベッドや布団の上で仰向けになり、膝が自然にピタッと伸びているかどうかチェックしてみてください。わずかでも浮いている・少し曲がっているように見える場合は、伸ばしきれない状態が続いている可能性があります。
「膝が曲がらない」よりも「膝が伸びない」ことに目を向けてみましょう
膝にトラブルを抱えている方の多くは、「しゃがめない」「曲がらない」ことを強く気にされます。ところが、実際のリハビリの現場では、曲げる前に「まっすぐ伸ばすこと」が十分にできていない方が非常に多いのが現状です。
変形性膝関節症では、膝の関節にねじれが生じ、膝が伸びきらないまま生活していることがあります。ほんの数度の差でも、日常生活では大きな負担の違いとなり、痛みや動かしにくさにつながります。
膝のねじれが落ち着き、しっかりと伸びるようになってくると、筋肉のバランスが整い、関節の動きがスムーズになります。その結果、痛みが和らいだあとに、自然と膝の曲がりもついてくるというケースを多く経験してきました。
リハビリに長く携わった経験からいえば、日常生活（立つ・歩く・階段など）に関しては、「よく曲がる膝」よりも「しっかり伸びる膝」のほうが、メリットが大きいと感じています。
立つ・歩く・階段…膝が伸びると何が変わる？
膝にトラブルのない方を観察すると、立っているとき・歩いているとき・階段を降りるとき、体重がしっかり乗る局面では、膝はほぼまっすぐに近い角度になっています（厳密にはごくわずかに曲がっています）。
このとき、膝がきちんと伸びていると、体重は「関節が荷重を受けるために設計された部分」にかかります。その結果、半月板や靱帯、周りの筋肉への負担も抑えられます。
一方、膝が常に少し曲がったまま立ったり歩いたりすると、常に中腰で生活しているような状態になります。太ももやふくらはぎの筋肉は休むことができず、膝関節の中にも余計な負担がかかり続け、痛みが出やすくなります。
試しに、わざと膝を少し曲げたまま、しばらく立ったり、その姿勢で歩いたりしてみてください。すぐに太ももや膝まわりがつらくなると思います。これが、膝がしっかり伸びきっていない状態で日常生活を送っているときの負担に近いイメージです。
つまり、膝がしっかり伸びると、関節にも筋肉にも「楽なポジション」が増えるということです。膝を曲げる動きよりも、まずは伸ばすことを大切にしてほしい理由はここにあります。
膝が伸びるために必要な「正しいねじれ」とは？
「膝の正しい動き」と言われても、イメージしにくいと思います。ここでは、できるだけ分かりやすく膝の特徴を説明します。
膝を曲げ伸ばしするとき、実はただ前後に動いているだけではなく、鍵を回してカチッと締めるように、少しねじれながら動いていることが分かっています。これを専門的にはスクリューホームムーブメントといいます。
ざっくり言うと、
・膝を伸ばしていくとき：すね（膝から下）が少し外側に回る（つま先がやや外を向くイメージ）
・膝を曲げていくとき：すねが少し内側に回る（つま先がやや内を向くイメージ）
というねじれが自然に起こります。この「ちょうど良いねじれ」があることで、膝はスムーズに伸びたり曲がったりし、伸びきったところで関節が安定します。
ところが、変形性膝関節症では、関節自体の変形や筋肉のこわばりなどが重なり、このねじれがうまく使えなくなることがあります。その結果、
・ねじれたままロックされてしまい伸びきらない
・曲げようとすると違和感や痛みが出る
といった状態になり、「膝が伸びない」「曲がりにくい」を同時に起こしてしまいます。
このスムーズなねじれを取り戻すためには、関節そのものだけでなく、周囲の筋肉が「固まりすぎず・サボりすぎず」働くことが大切です。次に、その筋肉の話をしていきます。
ふくらはぎ・太ももの裏のこわばりが、膝の伸びを邪魔してしまう
変形性膝関節症の方をみていると、「太ももの筋力が足りない」というよりも、
・ふくらはぎの筋肉（下腿三頭筋）
・太ももの裏側の筋肉（ハムストリングス）
といった、膝を曲げる側の筋肉が過剰に緊張して硬くなっているケースがとても多く見られます。
これらの筋肉は本来「膝を曲げる」役割を持っていますが、硬くなりすぎると、
・膝を伸ばしたくてもブレーキがかかる
・力が抜けないため、曲げる動きもかえってぎこちなくなる
といった状態になり、膝の動きを二重に邪魔してしまいます。
この「膝を曲げる筋肉のこわばり」をほどいていくには、膝を伸ばす筋肉（太ももの前側）にも適度に刺激を入れることがポイントです。伸ばす側にうまく力が入ると、先ほどお話した相反神経支配の仕組みで、自然と曲げる側の筋肉がゆるみやすくなります。
もちろん、足首や股関節の影響も大きく関わりますので、実際の評価では全体を見ながら整えていく必要がありますが、日常生活のなかでは「膝を最後まで伸ばせているか」を意識してみることが第一歩になります。
日常生活で意識したいポイント ── まずは「伸ばす」ことを優先
膝の曲がり具合を気にする前に、日常生活で次のような場面の「膝が伸びているかどうか」をチェックしてみてください。
・椅子から立ち上がるとき、立ち上がったあとに膝がまっすぐになっているか
・歩き出したあと、一歩一歩の着地のタイミングで膝が伸びているか
・階段を降りるとき、体重を乗せる足の膝が突っ張りすぎず、でも曲がりっぱなしでもないか
もし常に少し曲がったままになっているようであれば、まずは「伸ばせる範囲で、できるだけ気持ちよく伸ばす」ことから始めてみましょう。無理に反らせる必要はありません。
ふくらはぎのストレッチで「伸びやすい膝」に近づける
ふくらはぎの筋肉は、年齢を重ねたり歩く機会が減ったりすると硬くなりやすく、膝がまっすぐ伸びにくくなる原因のひとつです。
いわゆる「アキレス腱伸ばし」のストレッチは、ふくらはぎをゆるめるのに役立ちます。
この写真のように、前後に足を開き、後ろ足の膝をできるだけ伸ばしたまま、かかとを床につけるようにします。壁に手をついて、身体を少し前に倒すと伸びている感覚が分かりやすくなります。
・痛みが出ない範囲で
・呼吸を止めずに
・左右バランスよく
を意識しながら、毎日少しずつ続けることが大切です。正しいフォームが不安な場合は、一度専門家に確認してもらうと安心です。
歩き方を少し変えて、自然に膝を伸ばしやすくする
ストレッチがうまくできているか分からない方は、歩き方に少し工夫を入れてみるだけでも変化が出ることがあります。
人目の少ない場所で構いませんので、いつもより少しだけ大股で歩くことを試してみてください。大股で歩くと、おしりの筋肉が働きやすくなり、結果として膝を伸ばしやすい姿勢に近づきます。
このとき、「かかとからつく」「つま先で蹴る」といった細かいことを意識しすぎる必要はありません。むしろ意識しすぎると力が入りすぎて、かえって歩きにくくなることもあります。
膝の状態によっては負担になる場合もありますので、痛みが強くなるときは無理をせず中止してください。
ふくらはぎや太ももの裏の筋肉のコンディションが整ってくると、膝のねじれもおさまり、正しい曲げ伸ばしの動きが出やすくなります。そうなると、階段の上り下りや立ち上がりなど、日常生活の動作も少しずつ行いやすくなっていきます。
手術が必要ない膝の痛みの多くは、筋肉の状態や普段の姿勢・動作のくせが大きく関わっています。足に体重がかかる瞬間に「膝がどれくらい伸びているか」を意識してみることは、その第一歩になります。
痛み止めや注射で痛みを抑えることも大切ですが、一度ご自分の膝が本当に伸びているかどうか、確認してみてください。
膝のねじれが気になっている方や、より具体的なエクササイズについては、下の記事も参考になります。↓↓↓
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