「もう限界…」変形性膝関節症の痛みに日々悩まされているあなたへ

この記事の執筆・監修:理学療法士 木村柄珠(フィジカルプラス下関)
膝の痛み・変形性膝関節症
この記事の執筆・監修:理学療法士 木村柄珠(フィジカルプラス下関)

階段の上り下り、朝ベッドや布団から立ち上がるとき、バスの乗り降りで一段目を踏み出すとき…。
変形性膝関節症による膝の痛みは、こうした何気ない動作を不安と苦痛のタネにしてしまいます。

「少しでもラクに動けるようになりたい」──そのお気持ちは、とてもよく分かります。

変形性膝関節症の痛みを和らげていくうえで、大きな鍵になるのが「姿勢」と「荷重のかけ方」です。
立ち方・座り方・歩き方など、日常のちょっとした意識の積み重ねで、膝にかかる負担は大きく変わってきます。

変形性膝関節症のつらさと姿勢の関係

「姿勢を変えるだけで膝の痛みが変わるの?」と感じるかもしれませんが、変形性膝関節症の方には、共通した姿勢の特徴がみられることが少なくありません。

医療現場では、関節アライメント(骨の並び方・向き)を整えることで、膝まわりにかかる負担が変わり、痛みが和らぐケースが多く経験されています。
少しの向きの違いでも、体重のかかり方は大きく変わるからです。

変形の程度によって目指すゴールは変わりますが、

  • 変形の少ない方:日常生活で痛みをあまり意識せずに動ける状態を目標にする
  • 変形の強い方:痛みを抱えながらでも、セルフケアでコントロールしやすい状態を目標にする

といったように、「今の状態」に合わせて姿勢や動作を整えていくことが大切になります。

ここからは、日常生活でご相談の多い3つの場面──朝の立ち上がり・階段の上り下り・バスや段差の乗り降り──をイメージしながら、膝の負担を減らすためのポイントを整理していきます。

股関節と足関節が動くと、膝はラクになりやすい

コンディショニング

変形性膝関節症の方は、多くの場合股関節や足首(足関節)の動きが硬くなっていることがよくあります。膝関節は、これら2つの関節に挟まれた位置にあり、お互いに影響し合っているためです。

ところが、痛みが出るとどうしても「膝そのもの」ばかりに注目しがちです。
実際には、股関節や足首が少し動きやすくなるだけでも、膝の向きや体重のかかり方が変化し、膝まわりの過剰な緊張が和らぐケースが少なくありません。

膝そのものに可動域の制限が残っていても、股関節と足関節が動きやすくなることで、膝を伸ばす動きに余裕が生まれやすくなります。
その結果、

  • 朝起きて最初の一歩を踏み出すとき
  • 椅子や布団から立ち上がるとき
  • 階段を上り始めるとき

といった場面で、膝にかかる負担が少しずつ分散されていきます。

また、ふくらはぎの筋肉(特に腓腹筋)は膝の上まで付着しており、ここが短く硬くなると膝が十分に伸びにくくなります。
足裏の柔らかさとも関係が深いため、ふくらはぎと足裏を意識的にやわらかく保つことは、膝のためにも大切なポイントです。

股関節と足首・足裏がしなやかに動くようになってくると、膝関節のアライメントは少しずつ整いやすくなり、立ち上がりや歩行などの日常動作でも「膝の特定の場所だけが頑張る」状態を避けやすくなります。

荷重のかけ方を変えて、膝にやさしい姿勢へ

膝に痛みのある方は、足を地面についたときに膝がしっかり伸びていなかったり、膝の向きがねじれていたりすることがよくあります。
これは、言い換えると「足に体重を乗せる姿勢」が偏っている状態です。

膝まわりの筋肉だけでなく、姿勢や体重の乗せ方のクセによって、
足をついた瞬間に痛みが出やすい荷重方法になっていることも少なくありません。

ここから紹介する3つの方法は、立ち方・歩き方の荷重のかけ方を少し変えてみる練習です。
階段やバスの段差、朝の一歩など、日常の動作の前後に取り入れてみてください。

自分でできる「痛みの少ない荷重」を探す練習

1 つま先を意識した立ち方・歩き方

変形性膝関節症のエクササイズ

つま先立ちになると、体重は自然と前より(つま先側)に移動します。
普段、かかと側に強く体重をかけて歩いている方では、これだけでも姿勢が変わり、膝の痛みが軽くなることがあります。

まずは、キッチンのカウンターや手すりにつかまり、安全を確保した状態で、

  • その場でゆっくりつま先立ちになり、かかとを下ろす
  • 朝の立ち上がりの直後に、軽くつま先立ちを数回してから歩き始める
  • バスや段差に乗る前に、つま先に体重を預ける感覚を一度確認する

などを試してみてください。
ふらつきやすい方は、必ず何かにつかまった状態で行うようにしましょう。

2 足の小指側に体重を乗せる感覚をつくる

足の小指側に荷重

画像のように、足の小指側に少し体重を寄せるように立ってみると、普段親指側に強く体重をかけている方は姿勢が変わりやすくなります。

これは、変形性膝関節症の方で働きづらくなりがちな股関節の内転筋群にも刺激が入りやすく、膝まわりの余計な緊張をやわらげるうえでも役立ちます。

階段を上るときや、バスの一段目に足を乗せるときに、
「ほんの少しだけ小指側にも体重を預けてみる」というイメージで荷重してみてください。
足首をひねらないよう、慣れるまでは必ず手すりや壁などを利用しましょう。

3 足の指をしっかり曲げてから動き出す

足指の屈曲

変形性膝関節症の方では、足の指がうまく曲がらなかったり、どこまで動いているか分からなかったりすることがよくあります。

座った状態で、

  • 手を使って足の指をやさしく、しかししっかりと曲げていく
  • そのあと、自分の足の力だけで数十回、指をぎゅっと曲げ伸ばしする

といった動きを行ってから立ち上がってみてください。
片足だけ行って立ってみると、行った側の足のほうが「踏みやすい」「一歩が出しやすい」と感じることが多いはずです。

これは、ふくらはぎの緊張が少し抜けて膝が伸びやすくなり、姿勢全体が変わることで起こる変化です。
朝の立ち上がりや、階段・バスの乗り降りの前に数回行うだけでも、動きやすさの違いを感じる方もおられます。

強い痛みが出る場合は無理をせず、小さな動きから少しずつ慣らしていきましょう。

腹圧を高めて、姿勢の支え方を変えていく

姿勢イメージ

膝の痛みを抱えている方は、歩き方だけでなく、反り腰・猫背・円背などの姿勢のくせを一緒に持っていることも多く見られます。
背骨そのものの変化がある場合でも、お腹の内側の圧(腹圧)の使い方が変わると、体の支え方が変わり、膝への負担がやわらぐことがあります。

腹圧を高める方法はいくつかありますが、簡単なものの一つが風船を膨らませる動きです。
風船を何回か膨らませてから立ち上がってみると、体の中心がしっかりした感覚が出て、膝の負担が少し軽く感じられる方もおられます。

トイレから立ち上がるとき、朝の起き上がり、バスの段差をまたぐ前など、怖さを感じやすいタイミングの前に、
軽く深呼吸をしてお腹に力を集めるイメージを持つだけでも、体の支え方は変化します。

ただし、血圧が高い方や循環器に不安のある方は、風船を使った方法などを行う前に、医師や理学療法士など専門家に相談してください。

いずれの方法も、「うまくできているか分からない」と感じることがあるかもしれませんが、
繰り返していくうちに、少しずつご自身の姿勢や動き方の変化に気付きやすくなっていきます。

セルフケアは「少しずつ・続ける」が何より大切です

変形性膝関節症による膝の痛みがある方にとって、続けられるセルフケアを見つけることはとても大切です。

今回ご紹介した内容は、

  • 朝の立ち上がり前に、足指やつま先を確認する
  • 階段の前で、小指側に少し体重を預けてみる
  • バスや段差の乗り降りの前に、お腹に軽く力を入れてから一歩を出す

といったように、日常生活の動きと組み合わせて行いやすいものばかりです。

ただやみくもに筋トレだけを増やすのではなく、
「いつ・どのように体重をかけるか」「どの関節をどの順番で動かすか」を意識しながら、少しずつ続けていくことが、膝にやさしい体の使い方につながっていきます。

もちろん、すべての方に同じ変化が出るとは限りませんし、
強い痛みや腫れ、熱感、急な動きにくさが出た場合には、無理をせず医療機関を受診してください。

ここでご紹介した内容をやってみた感想や、「こんな場面で困っている」などのご相談があれば、ぜひLINEでメッセージを送っていただけると嬉しく思います。

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理学療法士(Physical Therapist)。
病院勤務時代には、延べ4万人以上のリハビリテーションに携わる。現在は「フィジカルプラス下関」代表として、痛みや動きにくさと向き合いながら生活や競技を続けていくためのコンディショニング支援を中心に活動。地元の中高生からプロアスリートまで幅広くサポートし、山口県スポーツ協会認定トレーナーとして10年以上国スポにも帯同している。

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