■ 人工股関節術後の脚長差が気になる方へ
人工股関節の手術を受けたあと、最初に気になることの一つが「脚長差」ではないでしょうか。
「手術側の脚が長くなった気がする」「左右の足で地面のつき方が違う」「歩くとふらつく」といった感覚は、多くの方が経験されるものです。
ただ、脚長差といっても、「実際の骨の長さの違い」だけが原因というわけではありません。
骨盤の傾きや筋肉の働き方、術前から続いていた動作のクセ、そして「からだの感じ方(体性感覚)」など、さまざまな要素が組み合わさって、脚長差として感じられます。
このページでは、脚長差のメカニズムをできるだけわかりやすく整理し、
日常生活の中で意識しておきたいポイントと、簡単なセルフチェックのヒントをまとめました。
■ なぜ脚長差を感じるのか?
脚長差と一口にいっても、実際には次のような要素が重なって感じられます。
- 骨そのものの長さの違い(実際の脚長差)
- 骨盤の傾きや動き方のクセ
- 筋肉の働き方の左右差
- 脳が感じ取る「からだの位置感覚」のズレ
術後の歩きにくさや不安定さを整理するうえでは、
「骨の長さ」だけでなく、「からだ全体のバランス」と「感じ方」もあわせて見ていくことが大切です。
【1】骨そのものの長さの違い
変形性股関節症などでは、手術の前からすでに関節の変形や姿勢の変化によって、実際の脚の長さに少し差が出ている場合があります。
人工股関節の手術では、関節の安定性や痛みの軽減を優先して、ある程度「適切とされる長さ」に調整されることが多くなります。
そのため、術前に短くなっていた側の脚が、術後にはバランスの良い長さに近づき、
「今までよりも長くなったように感じる」ということも少なくありません。
【2】術後は“骨盤の傾き”が大きく影響する
立ったときの脚の長さは、骨盤の傾きによって見え方が大きく変わります。
片方の骨盤が上がっていたり、前後にねじれていたりすると、見かけ上の脚長差が強調されてしまうことがあります。
術後しばらくは、痛みやこわばりをかばうために、どうしても片側に体重を乗せやすくなったり、
片側の腰を引いて立つようなクセが出やすくなります。
その結果、「骨盤の位置のクセ」→「見た目の脚長差」→「歩くときの不安定さ」という流れが生じてしまうことがあります。
【3】筋の働きの左右差による“見せかけの長さ”
中殿筋や腰まわりの筋肉(腰方形筋など)の緊張に左右差があると、骨盤が片側に引き寄せられ、
「片方の脚だけが長く感じる」状態になることがあります。
さらに、手術前から長いあいだ痛みを抱えていた方ほど、
片足に体重を乗せるときのクセや、歩き方の習慣が残りやすく、
それが術後の筋バランスにも影響してしまいます。
【4】体性感覚の乱れ(からだの「感じ方」のズレ)
人のからだは、関節や筋肉にあるセンサーからの情報をもとに、
「今、どの位置にあるか」「どれくらい体重が乗っているか」を常に感じ取っています。これを体性感覚といいます。
術前に長く痛みが続いていたり、かばった歩き方が習慣になっていたりすると、
脳が「左右のバランスが崩れた状態」を当たり前として覚えてしまうことがあります。
その状態から手術をしてバランスが変わると、「実際には大きな差がなくても、アンバランスに感じる」ということが起こります。
■ 実際の脚長差の影響はどれくらい?
医学的な報告では、
おおよそ5mm程度の脚長差は、はっきりとした歩行の異常につながらないことが多いとされています。
(ただし、これはあくまで多くの方を対象とした研究上の目安であり、個人差があります。)
ここで大切なのは、「見た目の脚長差」と「感じる脚長差」は別物である
という点です。
- 骨盤がどちらかに傾いている
- 体重を乗せたときに体が片側に倒れる
- 手術直後で「乗せて大丈夫かどうか」の不安が強い
- 股関節周囲の筋肉の働きに左右差が大きい
- 片方の足にばかり荷重をかけるクセが残っている
こういった要素が重なると、
実際の差が大きくなかったとしても、体は「もっと差がある」と感じてしまうことがあります。
その結果、
- 歩くとふらつきが出る
- 腰や背中がすぐに疲れる
- 手術していない側の足に負担がかかる
- 左右で歩幅が揃わない
- 階段の上り下りが怖く感じる
といった日常生活での不安定さにつながることがあります。
つまり、
数値としての脚長差そのものより、「からだの使い方」と「感じ方」のほうが問題になりやすい、という印象を持っています。
■ 簡単にできる脚長差セルフチェックのヒント
ここでは、ご自宅でできる「脚長差の感じ方」を整理するためのセルフチェックのヒントをいくつかご紹介します。
安全のため、いずれもつかまれる場所を確保し、無理のない範囲で行ってください。
- 鏡の前でまっすぐ立ってみる
肩の高さ・腰の高さ・ベルトラインが左右どちらかに傾いていないかを確認します。 - 左右の足に順番に体重を乗せてみる
手すりや壁に軽く手を添えながら、ゆっくり左右の足に体重を移してみます。
片側だけ不安定に感じる・すぐに疲れる場合は、その側に体重を乗せることを避けている可能性があります。 - その場で足踏みしてみる
軽く足踏みをして、片方だけ高く上げにくい/すぐに疲れてしまう側がないかを確認します。
これらはあくまで「今の状態を知るための目安」です。
痛みが強くなる場合や、不安を強く感じる場合は中止し、無理をしないようにしてください。
人工股関節・人工骨頭置換術後の方へ
手術後の「歩きにくさ・違和感」が続いていませんか?
人工関節の術後に多い、歩きにくさ・脚長差の感覚・疲れやすさなどについて、
理学療法士が姿勢と動きの視点から整理した内容をまとめたページです。
■ 日常で意識したい3つのポイント
ここからは、脚長差の「感じ方」を整えていくうえで、日常生活に取り入れやすいポイントを3つに分けてご紹介します。
いずれも痛みが強くないタイミングに、無理のない範囲で行ってください。
① 骨盤の左右差を整えるためのやさしい動き
目的:骨盤の傾き・ねじれをやさしく動かし、左右の荷重バランスをそろえていく
骨盤の位置が整ってくると、立ったときの足の長さの「感じ方」が少し変わることがあります。

例:骨盤側屈運動(上半身をゆっくり左右に倒す)
- 椅子に座る、もしくは立った姿勢で行います。
- 腰を反らさないように意識しながら、片手をゆっくり頭の上に挙げます。
- 息を止めないようにしながら、上半身をゆっくり左右に倒します。
- 左右それぞれ10回 × 2セットを目安に、心地よい範囲で行います。
- 座って行う場合は、伸ばされる側のおしりに少し体重を乗せると、骨盤まわりが動きやすくなります。
② 中殿筋の再教育(片脚立ちの安定性づくり)
目的:手術側・反対側どちらの「横ぶれ」も抑える筋肉に、無理のない範囲でスイッチを入れる
中殿筋がうまく働きにくいと、一歩ごとに骨盤が揺れてしまい、
脚長差が大きくなったように感じることがあります。

例:足踏みトレーニング(安全第一で)
- バランスに不安があれば、壁や椅子の背もたれなどにつかまりながら行います。
- 必要であれば、手術側の足の下に3cm程度の本などを置きます。
- その状態で足踏みを行い、足をついた側の膝が過度に曲がらないよう意識します。
- 浮いている足は、無理のない範囲で軽く持ち上げます。
- 20〜30回 × 2セットを目安に、痛みの出ない範囲で行います。
ポイントは、膝がしっかり伸びる → 骨盤が安定しやすくなる → 脚長差の「感じ方」が落ち着きやすくなる、という流れをつくることです。
③ 体幹の安定化(おなかの奥の筋肉をやさしく意識する)
目的:歩くときに体が左右に揺れすぎない「軸」をつくる
体幹が不安定だと、片側に重心が寄りやすくなり、
脚長差が実際以上に大きく感じられることがあります。

例:ドローイン(深い腹筋にやさしくスイッチを入れる)
- 仰向けになり、膝を軽く立てます。
- 背中が反りすぎないように気をつけながら、下腹部を軽くへこませます。
- 呼吸を止めないようにしながら、20〜30秒キープします。
- これを2〜3セット行います。
どの年代の方にも使いやすい、基本的な安定化トレーニングです。
脚長差や歩きにくさの背景にある「体の軸づくり」の一助となることがあります。
■ フィジカルプラスで大切にしていること
人工股関節術後の脚長差や歩きにくさに対しては、
数値としての脚長差だけでなく、
- 立ち方・歩き方のクセ
- 骨盤や体幹のバランス
- 股関節まわりの筋肉の働き方
- 「怖さ」や「不安」といった感情面
などもあわせて整理していくことが大切です。
フィジカルプラスでは、歩行の様子や姿勢のクセを確認しながら、
今の状態にあわせて日常生活で意識しやすいポイントや、ご自宅で続けやすいエクササイズの提案を心がけています。
(内容はお一人おひとりの状態によって異なります。)
脚長差や歩きにくさについて個別に相談したい方は、
「人工股関節・人工膝関節術後サポートページ」
もあわせてご覧ください。
股関節手術後の「足の長さ」に関するよくあるご質問
手術後に左右の足の長さが違って感じるのは、失敗でしょうか?
決して失敗ではありません。レントゲン上の長さが等しくても、骨盤の傾きや周りの筋肉の緊張によって「感覚的」に差を感じることが多くあります。リハビリを通じて、その違和感を少しずつ解消していくことが可能です。
この違和感は、リハビリで良くなりますか?
はい。硬くなっている筋肉をほぐしたり、正しい重心の乗せ方を再学習することで、左右差の感覚はやわらいでいきます。焦らず、段階的に体になじませていくことが大切です。
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