人工骨頭置換術後に歩きにくい…歩行距離が伸びないときの考え方とからだの使い方

この記事の執筆・監修:理学療法士 木村柄珠(フィジカルプラス下関)
人工関節手術後(股関節・膝)
この記事の執筆・監修:理学療法士 木村柄珠(フィジカルプラス下関)

人工股関節・人工骨頭置換術後に「歩けない」「歩きにくい」と感じるときに

人工骨頭置換術や人工股関節の手術を受けたあと、「もっと楽に歩けるようになると思っていたのに…」と戸惑う方は少なくありません。痛みや日常生活のしづらさを和らげることを目的に手術を受けたにもかかわらず、歩行練習を始めても思うように歩行距離が伸びず、外出や買い物に不安を感じてしまうことがあります。

痛みそのものは落ち着いてきても、歩き方のクセが残ったままだと、「どれだけ歩いてよいのか分からない」「すぐ疲れてしまう」といったモヤモヤが続きやすくなります。術後の歩きにくさには、多くの場合、からだの使い方の理由があります。まずは、その背景をいっしょに整理してみましょう。

※術後の歩きにくさについてのコンディショニング相談は、
「人工股関節・人工膝関節術後サポートページ」 でもご案内しています。内容を確認したうえで、必要に応じてご活用ください。

膝が棒のようになっていませんか?

人工骨頭置換術後の方の歩き方を見ていると、次のようなパターンがよくみられます。

  • 膝を軽く曲げたまま足を前に振り出し、そのまま足をついている
  • 膝を棒のように真っすぐ固めたまま、一歩ずつ運んでいる
股関節の運動

上の画像のような形のまま足を振り出し、そのまま足をつくような歩き方が続くと、股関節本来の自然な動きが出にくくなります。股関節を前に出すために働く腸腰筋(股関節を曲げる筋肉)などが十分に使われず、足首から下の筋肉ばかりに負担が偏ってしまうことがあるからです。

腸腰筋は、足を前に振り出す動きだけでなく、腰椎から骨盤まわりを支えるうえでも大切な筋肉です。ここがうまく働きにくくなると、腰から骨盤にかけての安定感が弱くなり、その不安定さを補おうとして、ふくらはぎなど別の部位を過剰に使ってしまうことがあります。

特に、ふくらはぎの筋肉を頑張りすぎる歩き方が続くと、足首まわりが常に張った状態になり、少し歩いただけでも疲れやすくなりがちです。結果として、歩行距離がなかなか伸びていかないという感覚につながりやすくなります。

自然な動きが出ないと、股関節まわりの筋肉が働きにくくなる

痛みや可動域の制限があると、股関節を大きく動かすことが怖くなり、どうしても動きを小さくまとめようとします。その結果、腸腰筋などの股関節まわりの筋肉が十分に働きにくくなり、代わりに膝下(ふくらはぎ)の筋肉で頑張るパターンが習慣になってしまうことがあります。

このような使い方が続くと、本来うまく使いたい部分(ここでは股関節)がさらに動きづらくなり、気づかないうちに「股関節をあまり動かさない歩き方」が定着してしまうこともあります。

本来は、股関節まわりと下腿(ふくらはぎ)の両方の働きをバランスよく引き出していくことが大切です。しかし、リハビリを担当するスタッフの方針や、限られた入院期間の中では、歩き方の細かいクセまで十分に確認しきれないこともあります。

そのため、リハビリを頑張っていたにもかかわらず、退院後に「歩行距離が思ったほど伸びない」「別の場所に張りやすさが出てきた」と感じる方もおられます。気になる歩き方のクセは、できるだけ早い段階で少しずつ見直していくことが大切です。

股関節術後に歩行距離が伸びないときのエクササイズ例

ここからは、人工骨頭置換術後の方で、ふくらはぎに力が入りすぎていると感じるときに、一つの選択肢として試してみたい運動を紹介します。

・手術後の経過や医師の指示によって、行ってよい運動は異なります。
・痛みが強い時期や、バランスをとるのが難しい場合は無理に行わず、必ず主治医や担当のリハビリスタッフにご確認ください。
・安全のため、転倒リスクがない環境で、必要に応じてご家族の見守りを受けながら行ってください。

ふくらはぎの過剰な働きをおさえるための運動

ふくらはぎの筋肉が常に張っているような状態では、膝をなめらかに伸ばしたり曲げたりする動きが出にくくなります。ここでは、かかとをしっかり床につけたまま膝を動かしていくことで、ふくらはぎの緊張を少しずつ和らげ、股関節まわりが動きやすくなる感覚を引き出すことをねらいます。

杖歩行が少し可能になってきた頃から行いやすい運動ですが、退院後に自宅で行う場合もあります。その際は、くれぐれも安全面に注意してください。

やり方は次の通りです。

① テーブルやベッドなど、動かないものに両手をつき、足を軽く前後に開きます。

股関節の運動

② 左右のかかとをしっかり床につけたまま、ゆっくりと膝の曲げ伸ばしを繰り返します。

股関節の運動

膝を曲げたときに、かかとがすぐ浮いてしまう方は、ふくらはぎの筋肉が伸びにくくなっている可能性があります。はじめは小さな角度からで構いませんので、かかとを床につけたまま膝を動かす感覚を大切にしてみてください。

伸ばすときは、痛みが強くならない範囲で「今の自分なりに伸びた」と感じるところまで意識して膝を伸ばします(曲げるときはすうっと力を抜くイメージで構いません)。膝が完全に真っ直ぐにならなくても大丈夫です。

最初の目安としては、左右それぞれ20〜30回程度を、呼吸を止めないようにしながらゆっくり行ってみてください。痛みや不安が出る場合は、回数を減らしたり、中止したりしてかまいません。

大切なのは、難しく考えすぎず、無理のない範囲でこまめに続けることです。人によって感じ方はさまざまですが、数日〜数週間続けることで、「足が少し軽く感じる」「歩き出しが怖くなくなってきた」とお話しされる方もいます(変化の出方には個人差があります)。

なお、股関節そのものを動かすエクササイズを組み合わせると、からだ全体の連動が出やすくなりますが、それについては別の機会にあらためて整理していきます。

人工股関節・人工骨頭置換術後の方へ

手術後の「歩きにくさ・違和感」が続いていませんか?

人工関節の術後に多い、歩きにくさ・脚長差の感覚・疲れやすさなどについて、
理学療法士が姿勢と動きの視点から整理した内容をまとめたページです。

人工股関節・人工膝関節術後サポートページを見る

まとめ:歩きにくさの背景には「からだの使い方」があります

人工骨頭置換術後のリハビリでは、本来であれば医療機関でのリハビリの中で歩行練習まである程度進めていくのが理想です。ただ、年齢や手術前の状態、入院期間、医療制度上の制限などによって、歩き方の細かなクセまで十分に確認する時間がとれないこともあります。

比較的ご高齢の方では、回復期リハビリテーション病棟などでリハビリを継続できる機会があり、そこで歩行様式について丁寧な指導を受けられるケースもあります。一方で、若い方や入院期間が短い方では、早い段階で自立歩行が可能になるぶん、細かなからだの使い方がそのまま習慣になってしまうこともあります。

ふくらはぎに力が入りすぎる歩き方や、膝を棒のように固めてしまう歩き方は、からだを守ろうとする反応でもありますが、その状態が長く続くと、股関節まわりの自然な動きが出にくくなり、歩行距離がなかなか伸びない原因の一つになりえます。

今回ご紹介したようなエクササイズは、手術側だけでなく、反対側の足のふくらはぎの張りを和らげるきっかけにもなり、股関節周囲の自然な動きを引き出す助けになる場合があります。あくまで一例ではありますが、からだの使い方を見直す手がかりとして活用していただければと思います。

変形性膝関節症や変形性股関節症の方で、膝が伸びにくい・足首まわりが張りやすいといったお悩みがある場合にも、似た考え方が当てはまることがあります。ただし、すべての方に同じエクササイズが合うわけではありませんので、不安がある場合や痛みが強くなる場合は中止し、主治医や専門職にご相談ください。

「歩きにくさ」が続くと、どうしても気持ちまで縮こまってしまいがちです。まずは一人で抱え込まず、ご自身のからだの状態と向き合うための材料を少しずつ集めていきましょう。

※本記事の内容は、一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の診断や治療方針の決定を代わるものではありません。
実際の運動の開始・中止や負荷量については、かならず主治医や担当のリハビリスタッフとご相談ください。

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人工骨頭置換術後の歩きにくさや歩行距離についてお悩みの方は、まずは情報収集からでもかまいません。ご自身のペースで、からだの使い方を見直すヒントを取り入れてみてください。

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理学療法士(Physical Therapist)。
病院勤務時代には、延べ4万人以上のリハビリテーションに携わる。現在は「フィジカルプラス下関」代表として、痛みや動きにくさと向き合いながら生活や競技を続けていくためのコンディショニング支援を中心に活動。地元の中高生からプロアスリートまで幅広くサポートし、山口県スポーツ協会認定トレーナーとして10年以上国スポにも帯同している。

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